株式会社丸運

トップメッセージ

株式会社 丸運 代表取締役社長
桑原 豊

長期ビジョンの実現に向けて事業・経営基盤を強化し、
物流エキスパート企業へ進化します

目前に迫る「2024年問題」への対応

国内の物流業界は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大という未曾有の事態においても物流を途絶えさせることなく、生活や産業の基盤を支え続けました。そして現在、コロナ禍の収束やインバウンド需要の回復によって人流は回復傾向にあるものの、BtoB物流についてはコロナ禍前の水準に戻り切っていません。その一方で、インフレによって燃料代や電気代等のコストが高騰しています。
このような状況のもと、ドライバーの残業規制が強化される「2024年問題」が喫緊の課題となっており、このままでは2024年に14%、2030年に34%の荷物が運べなくなると言われています。そのため、当社としては、賃金見直しや外注費の増加、車両・ドライバーの拡充に伴うコストの原資を確保する必要があります。
2024年問題は、コロナ禍によって物流の重要性が再認識されたこともあり、マスコミでも多く取り上げられ、日本が抱える重要課題の一つとして浸透し始めていると実感しています。政府も2024年問題に起因する物流の停滞を懸念して、今年3月に首相が包括的な対策を検討するよう指示し、6月に物流問題に対する政策パッケージとその具体策であるガイドラインを公表する等、ドライバーの待遇改善に向けて強力に支援しています。ガイドラインでは、荷役作業と荷待ち時間を現状の平均3時間から2時間以内に削減すること、大手荷主や運送会社の役員クラスに物流統括責任者をおき、物流の合理化に向けた計画策定とフォローを行うことが求められています。
こうした動きには、当社が加入している各種業界団体と政府間の協議も非常に効果的だったと感じています。官民が手を携えて取り組んでいる実感を強く持っており、今後はこのような機運を味方にして、業界間でのパレットの標準化や、荷主企業に対する運賃や料金の値上げ、リードタイムの延長等、現場での具体的な対応策についても理解を求めていきたいと考えています。

「提案営業力」「コスト競争力」を強化し、「次期成長分野」を耕す

「2024年問題」への対応を着実に進めながら、昨年発表した「2030丸運グループ長期ビジョン」の実現に向けて基礎固めと種まきを行うべく、2023年5月、第4次中期経営計画を策定しました。2025年度を最終年度とする本計画は、「長期ビジョン実現に向けた基礎固めと種まき」を基本方針として、①提案営業力の強化、②コスト競争力の強化、③次期成長分野拡大の実現を目指しています。
まず、①提案営業力の強化について、これまでの当社を含めた多くの物流企業の営業スタイルは荷主依存型の営業であり、物流企業側から提案することが少ない傾向にあったと認識しています。その一方で、荷主は我々に物流の効率化や安全・安定化に資する提案を期待しており、3PLはその最たる例と言えます。
丸運グループは、豊富な顧客基盤と運搬・保管業務や通関等の輸出入業務に関する高いノウハウ・知識、全国にまたがる多数の物流拠点を強みとしており、提案型営業が可能な素地は十分に備えています。また、提案型営業では、第一段階として荷主の懐に入ってその物流の実態や課題を理解することが重要であり、そこでは毎年、顧客満足度調査で高い評価を得ている当社営業のコミュニケーション力が活きてくるでしょう。ただ現状においては、各営業拠点のノウハウや知見が分散して存在し、組織としての「知」や「武器」として集約されていないところがあるため、導入予定の営業情報共有システムでその点を補って社内の連携強化による提案力の底上げを図りたいと考えています。
次に、②コスト競争力の強化に向けては、組織改革によるスリム化や配送体制の最適化等の業務効率化をいっそう推進していきます。例えば、昨年度末に全国の拠点への導入が完了した基幹システム「MLS(丸運ロジスティクスシステム)」には、作業者が扱うハンディ端末の在庫管理・出荷指示等の情報をオンラインで収集・蓄積するプラットフォーム機能が備わっています。拠点の作業特性に応じたハンディ機器の導入を加速して情報の精度を高め、それらの情報を一元管理することで荷物・車両・人材配置の可視化を行い、効率性を追求していきます。
そして、③次期成⾧分野拡大としては、当社の祖業であり、強みでもある機工分野において、M&Aや資本参加も視野に入れながらさらなる発展を目指すとともに、化学業界を中心としたお客さまからの需要が高まっている危険物倉庫の保管能力拡大も進めていきます。また、将来的には中間処理も含めたリサイクル物流事業への進出も検討し、環境問題への貢献につなげていきます。当社は金属関係のリサイクル物流に知見がありますので、2022年に参画したクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)をはじめとした業界団体等から情報を得ながら、リサイクルビジネスに欠かせない「回収」から「中間処理」工程の確立に物流企業として貢献していく考えです。

グループの強みをさらに拡大する戦略的な投資を実行

これら3つの成長戦略を加速させるため、第4次中期経営計画では、前中計実績の2.6倍の投資を計画しています。「機工」「食品流通」「リサイクル物流」「危険物保管」の4分野を戦略投資分野に特定し、M&Aや資本参加、新規拠点設立、設備増強等を通じて、市場の需要を捉えながら当社グループの強みの拡大を図ります。
このうち、機工部門については需要が高まる再生可能エネルギー領域を主なターゲットと見定めており、発電所や周辺インフラの建設にあたって、機材や蓄電池等の輸送、据え付け業務の拡大を目指します。
また、業務のDX化を加速するため、引き続きIT投資も重点的に実施します。昨年度末には、配送・倉庫稼働、保管状況や経理情報を一元管理する基幹システムの刷新を完了し、事務処理の効率化、ハンディ機器との情報連携等により、在庫・品質管理能力が飛躍的に向上すると思います。さらに、顧客ごとの損益管理ができるようになったことで、荷主企業との運賃交渉等においてデータに基づいたロジカルな説明が可能となり、説得力が高まるものと期待しています。

人財戦略をグループ全体の成長につなげる

丸運グループは、人は財産という考えのもとで「人財」と表現し、人に重きを置いた経営を重視しています。まずは社員との信頼関係を大切にしており、職場環境や仕事内容、人間関係における満足度を高め、エンゲージメントを向上させるためのさまざまな取り組みを進めています。
私個人としても、社員とのランチ会や拠点訪問等を積極的に行って率直な意見や要望に直接耳を傾けるようにしています。例えばお手洗いの環境や制服等、日々の勤務に密着した課題を聴かせてもらい、新鮮な気づきを得ることも多くあります。これはと思うものは整理して経営会議メンバーにも共有し、全社に共通する大きな課題やスピードが求められる課題については、プロジェクトチームを編成する等柔軟に対応しています。従業員エンゲージメントは、業績向上に大きく貢献するだけでなく、リテンションマネジメントの観点からも重要です。今後も社員との対話を大切にしながら、満足度アンケートを実施し、誰もが働きやすい環境の整備に努めていきます。
同時に、教育制度や評価制度についても、時代の変化に即した制度へと改善していきます。具体的には、「OJT教育」および「Off-JT教育」の徹底に加えてジョブローテーションをさらに活性化させ、個人の価値を高めながら、会社全体を俯瞰できる人財を育成します。さらに、積極果敢な挑戦を後押しするため、賃金制度の見直しや、成果を報酬に反映しやすくする仕組みの導入も進めていきます。

ESG経営を深化させて社会への提供価値を拡大する

丸運グループは、「ありたい姿」の実現に向けて6項目の最優先課題(マテリアリティ)を特定し、2030年度までの達成を目指して目標設定しています。なかでも環境負荷の低減と脱炭素社会への貢献は、物流企業として責任を持って進めなければならないと認識しています。
CO2排出量削減に関しては、2030年までにScope1・2を2019年度に比べて20%削減することを目標に掲げています。2022年度は5.9%の削減を達成しており、着実に進捗しています。また、CO2排出量の少ない鉄道輸送および内航船輸送を推進するモーダルシフトについて、当社グループは鉄道を利用した貨物輸送を創業時から手掛けており、幅広い知見・ノウハウを蓄積しています。鉄道輸送は2024年問題のドライバー不足解消に向けて顧客企業からの注目度も高まっており、今後さらに推進していく考えです。
加えて、車両のEV化を積極的に進めており、自動車メーカーとも情報交換を行っています。小型の営業車両はすでにEVへの置き換えが進んでいますが、トラックやローリー等の大型車両のEV化は、燃費や航続距離の問題から現時点では実用が難しい状況です。FCV(燃料電池車)の採用可能性も含めて、近い将来、商用化された時点で導入を図っていきたいと考えています。
私は、2030年までにすべての長期目標が達成できると確信していますが、取り組みの過程においても一つひとつの結果に満足することなく、社会への提供価値の拡大を意識しながら物流企業の使命を果たしていきたいと思います。

社会から必要とされるグループであり続ける

こうした人財、環境面で持続的に社会貢献できる企業になるためには、第4次中期経営計画や長期ビジョンの遂行とあわせて、当社グループ自身の収益力をしっかりと強化し、市場からも評価いただける企業になることが欠かせません。東京証券取引所の要請である資本収益性の向上については、設備増強や積極的なM&Aによる成長投資と、増配や自社株の取得による株主・投資家の皆さまへの利益還元を両輪と考え、最適な資本配分や資本構成について議論を深めていきます。現在は、経営やリスクマネジメントへの豊富な知見を有する社外取締役を含めた取締役会の中で、十分な議論を行いながら現状分析を進めているところであり、年内を目途に当社グループとしての方針を開示したいと考えています。

私は今、第4次中期経営計画の中でお示しした諸施策を一つひとつ着実に実行していけば、持続的成長と企業価値の向上が実現できるという確かな手応えを感じています。そして、お客さまやお取引先さま、株主・投資家の皆さま、社員等すべてのステークホルダーに対して、当社グループのビジョンや事業活動、ESG経営への取り組みをご理解いただくことが大切だと考えています。そのため、このサステナビリティレポートや投資家説明会等、あらゆる機会を活用して丁寧な対話を重ねていきたいと思います。
今後もESG経営を通じて社会から必要とされるグループであり続けられるよう、「現状維持は退歩」ということを肝に銘じ、失敗を恐れない強い気持ちをもってチャレンジしていきます。今後もご理解、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2023年9月29日
代表取締役社長

桑原豊